「超分子ハイブリッド材料」の開発
物事の自然科学現象を生み出す材料の多くは、有機物(や高分子化合物)と無機物のハイブリッド。
黒岩研究室では、原子や分子から自然現象を見極め、それらを素材とし、複数素材をハイブリッドするナノ材料を創成しています。
具体的には、、、、、
両親媒性化合物(分子)がひとりでに並ぶ性質(自己集合特性や界面活性)を利用して、様々な材料を並べ、ナノサイズの装置(生体模倣材料、電子材料)を新規開発する研究を行っております。それらの化学の基本概念には、ナノ配列そして準安定状態がキーワードになっています。
研究室配属を目指す学生・高校生のみなさんへ
超分子ハイブリッドは、いわば、分子という部品を使ったレゴブロック遊び、あるいは4つの正方形がつくる7種類の形をうまく組み合わせる「テトリスゲーム」のようなものだと考えてください。それをナノの世界でやろうという研究と実験です。さまざまな条件を与えて、その結果を分析するだけでも多くの仲間が必要です。私の研究室でいっしょにやりませんか?
ナノサイズの部品探し
〜ビーカー内でナノ装置を自作させる?!〜
(これまでに公開された一般公開資料)
「未来を創る研究室」, 4号, 崇城大学(2011.05掲載)
日刊工業新聞(2011.12.27掲載)
科学新聞(2012.1.13掲載)
熊本日日新聞(2012.4.23掲載)
興味がわく学問発見サイト「夢ナビ」(2013.10.19公開)
興味がわく学問発見サイト「夢ナビ」(2015.10.17公開)
文徳点描 2018, 492 (66), 3
熊本日日新聞(2018.6.16掲載)
科学新聞(2018.06.22掲載)
ビーカーの中でナノ配列を作る
石けんや乳化剤は水の中で油(脂)を溶かしますが、これは石けん分子一個一個の中に、水になじむ部分と油になじむ部分があって、水と油の界面(混じり合わないものが接している境界面)にくっつき、両者を混合させる現象に起因します。界面をつくる物質を一般に「界面活性剤」、専門的には「両親媒性化合物」といいます。「水と油の両方になじむ性質を持ち、両者を仲介する化合物」という意味です。このような両親媒性化合物は、洗剤や化粧品などに使われているだけでなく、私たち動物や農作物などの植物にも、細胞膜、有用成分、タンパク質などとしてたくさん含まれています。この物質をビーカーの中で取り扱い、並べさせるのが今の研究テーマです。導電性や磁性、発光性、生理活性を持つと考えられる物質(金属錯体)をビーカーに入れ、それを両親媒性化合物と混ぜて、画期的なブロック及びその配列状態をつくろうという実験です。もちろん、混ぜた結果、どのような形状ができたか、どのような性質を持つかは、一千万分の一aの世界を読み取れる精密分析機器で調べますが、つくり出す工場はビーカー一個なのです。
分子同士の‘出会い’で賢く変身
形状や配列にはシート状や立体も考えられますが、まずは電子顕微鏡などで見やすいファイバー(繊維状)やシート(膜状)などをつくらせて検証を繰り返しています。この実験の過程で実に面白いことが分かりました。低分子から高分子からなる様々な両親媒性化合物と、金属錯体や金属クラスターなどの無機化合物が“いい出会い”(ハイブリッド)をすると、できる材料の性能が高まることと、物質を構成する原子や電子同士が適切なコミュニケーションをとって、磁性や発光性や触媒性などの性質に効果的な配列を自ら選ぶらしいことです。原子の持つ電子同士のコミュニケーションとは笑われそうですが、原子核の周囲に存在する電子の存在の仕方が変化すると、その原子の持つ磁性や導電性、発光性が変化しますから、組み合わせによっては電子同士が互いにいい影響を及ぼし合うのです。恩師や同僚と研究、実験を続ける中で、ナノサイズの金属錯体を自由自在に並べさせることに成功しました。ヒントは生体内の脳組織や細胞膜の働きでした。動物や植物の細胞組織は進化の過程で最も効果的な配列を自ら選び出してきたからです。人為的にブロックの並び方を決めてやるのに比べ、原子や分子が自ら選んだ賢い並べ方の方が、材料として高機能で柔軟であり、応用範囲は広がることになります。今後は並ばせたナノ部品(ナノアーキテクチャー)の導電性や磁気メモリ、発光素子、生体標識、薬理活性などの評価、その先には実用化に向けたさまざまな工夫や実験が控えていて、時間はいくらあっても足りない思いです。
具体的な研究例
ハブ毒液由来のタンパク質とのハイブリッド
本研究では、猛毒として知られるハブ毒液から抽出されるホスホリパーゼA2の特徴的な表面構造に着目し、ナノ材料へ変貌させることに成功しました。ハブ毒液由来のホスホリパーゼA2は非常に多くの種類が存在していますが、それぞれのタンパク質には特有の毒性が知られています。このホスホリパーゼA2のいくつかに着目し、金属錯体と複合化できる手法を見出しました。それらのハイブリッド材料はファイバー状やロッド状構造体を形成し、そのナノ組織体ならではの発光材料になりました。この集積構造の制御を行うことで、毒→薬となるような生理活性制御や、生体標識材料としての利用が考えられます。本研究は、崇城大学薬学部 上田直子教授との共同研究の成果です。
Kuroiwa, Keita*; Matsumura, Yusei; Nagano, Keito; Kishimoto, Reina; Yoshizawa, Mai; Fujimura, Aoi; Shimaki, Nobuhito; Sakuragi, Mina; Oda-Ueda, Naoko,
"Supramolecular hybrids of proteins from Habu snake venom with discrete [Pt(CN)4]2− complex. ",
ACS Applied Materials & Interfaces 2024, , accepted. DOI:
テルペノイド配糖体とのハイブリッド
本研究では、農産物であるトマトの葉や茎から抽出されるステロイドアルカロイド配糖体(トマチン、デヒドロトマチンなど)や甘草から抽出されるグリチルレチン酸配糖体を、ナノ材料へ変貌させることに成功しました。具体的には、「農作物からの抽出された両親媒性物質の探索」、「分子組織性発光材料の開発」を融合させることで、農工融合型ナノ材料を創成できました。それらの農工融合型材料を用いて、ナノチューブやナノシートを形成し、そのナノ組織体ならではの発光材料や磁性材料になりました。もともとトマチンなどのテルペノイド配糖体は、LDLコレステロール低下効果、抗泡沫化効果などの様々な生理活性を有しているので、生体標識材料としての利用が考えられます。様々な金属錯体との組み合わせにより、ナノ構造体を創成するだけでなく、がん細胞に対する特異的な細胞透過特性と光線力学活性も証明しています。これらの研究は、農産物廃棄物のアップサイクルとみなすこともできます。 Mayuko Fujitsuka, Daisuke Iohara, Sae Oumura, Misaki Matsushima, Mina Sakuragi, Makoto Anraku, Tsuyoshi Ikeda, Fumitoshi Hirayama, Keita Kuroiwa*,
"Supramolecular assembly of hybrid Pt(II) porphyrin/ tomatine analogues with different nanostructures and cytotoxic activities. ",
ACS Omega 2021,6 (20), 13284-13292. DOI:10.1021/acsomega.1c01239
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Mayuko Fujitsuka, Kouta Araki, Tatsuhiro Kodama, Tran Thi Dieu Hien, Mina Sakuragi, Sangeetha Shetty, Yasuhito Koyama, Keita Kuroiwa*,
"Supramolecular control of spin equilibrium and oxidation state in nanohybrids of amphiphilic glycyrrhetinic acid derivatives with [Fe(TACN)2]2+. ",
Chem. Lett. 2021, 50 (6), 1142-1145. DOI: 10.1246/cl.210083
日本化学会のX(旧Twitter)にてポスト
Souta Toohara, Yasuaki Tanaka, Shinichi Sakurai, Tsuyoshi Ikeda, Kazuo Tanaka, Masayuki Gon, Yoshiki Chujo, Keita Kuroiwa*,
Chem. Lett. 2018, 47 (8), 1010-1013. DOI: 10.1246/cl.180320
熊本日日新聞(2018.6.16掲載), 科学新聞(2018.06.22掲載)
両親媒性ブロックコポリペプチドとのハイブリッド
金属―配位子結合が主要な構成要素として構築されるナノ金属錯体の分野においては、金属タンパク質・酵素の活性中心構造や、超分子錯体の素材などとして、様々な最先端研究が行われています。 これらのうち、前者は非常に複雑なアミノ酸配列を有するアポタンパク質によって金属錯体が取り囲まれ、induced-fit特性やアロステリズムに象徴される機能スイッチをもたらす柔軟構造を獲得しています。しかしながら、人工的に両親媒性ポリペプチドを合成すると、金属タンパク質のような複雑な構造を作り出すのは非常に困難です。一方、両親媒性ブロックコポリペプチドは、単純なアミノ酸配列にも関わらず、ファイバー、ベシクル、シートなどの多彩な構造制御が可能です。加えて、金属錯体とのハイブリッド材料を形成すると、金属タンパク質のような高次構造を形成する可能性があります。本研究では、両親媒性ブロックポリペプチドと金属錯体との超分子ハイブリッド材料を形成することで、ナノわらじやナノ直方体、ナノ座布団などの、サブナノサイズに整った材料の開発に成功しました。さらにこれらの材料は、発光性や磁性、触媒活性などが発現するナノ部品になることが明らかとなっています。 Yuya Tanimura, Kaito Miyamoto, Takuya Shiga, Masayuki Nihei, Keita Kuroiwa*,
"Supramolecular Control of Magnetism and Morphology of Hybrid Diblock Copolypeptide Amphiphile/Cyanide-Bridged Molecular Square Complexes. ",
J. Phys. Chem. C 2023,127 (33), 16525-16537. DOI: 10.1021/acs.jpcc.3c03898
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Yuya Tanimura, Mina Sakuragi, Timothy J. Deming, Keita Kuroiwa*,
"Self-assembly of Soluble Nanoarchitecture using Hybrids of Diblock Copolypeptide Amphiphiles with Copper Rubeanate Hydrates in Water and Their Electrooxidation Reaction. ",
ChemNanoMat 2020,6 (11), 1635-1640. DOI: 10.1002/cnma.202000481
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Arie Tsubasa, Soichi Otsuka, Takahiro Maekawa, Ryota Takano, Shinichi Sakurai, Timothy J. Deming, Keita Kuroiwa*,
Polymer 2017, 128(16), 347-355. DOI: 10.1016/j.polymer.2016.12.079
Special Issue "Supremolecular polymers"
Keita Kuroiwa*, Tsubasa Arie, Shinichi Sakurai, Shinya Hayami, Timothy J. Deming ,
J. Mater. Chem. C 2015, 3 (30), 7779-7783 DOI: 10.1039/c5tc00677e
Thermed Issue "Spin-State switches in Molecular Materials Chemistry"
Highlighted as a Front Cover Picture Selected as a Hot Paper 2015
Keita Kuroiwa*, Yoshitaka Masaki, Yuko Koga, Timothy J. Deming,
Int. J. Mol. Sci. 2013,14 (1), 2022-2035 DOI: 10.3390/ijms14012022
Special Issue "Molecular Self-Assembly 2012"
また、この成果は月刊「高分子」1月号のHot Topicsなどにも掲載されました。
Yoshitaka Masaki, Satoru Nakahara, Yuko Koga, Keita Kuroiwa
Hot Topics "Self-Assembly of Discrete Metal Complexes Integrated by Block Copolypeptide Amphiphiles in Water"
高分子, 2012, 61, (1), 5